【コラム】いなほ4000億円が三菱では100億円かも・驚異の見積係数

※本文は「あらすじ」から移動したものです。

黒幕部長と役員には、「ボッタクリ・プライスの4000億円と同程度のシステムは、三菱銀行では100億円ほどで開発できたかもしれない」という不都合な真実を知り得る最低限のIT知識も無かった。またそれを伝える勇気ある社員もいなかった。このことが「いなほ銀行」社員の不幸であり、また「いなほ銀行」役員の幸せなところであった。

あれだけの大障害を2回も出しておきながら、黒幕部長も「いなほ銀行」の経営陣は何も学習していなかった。何も分かっていなかった。

「いなほ銀行」はその都度、適当な発表で取り繕ってきた。しかし、口先だけであってIT軽視と顧客軽視の姿勢は2018年の現在も根本的には何も変わってなかったのだ。

日経コンピュータ(「誌」)では「経営トップが先頭に立ってシステム導入の指揮を執るべきだ」、そしてこそIT部門や開発者の士気があがって、プロジェクトが成功するとの旨の記載がある。4000億円を投じたから期日通りにシステムがまともに稼働すると思い込むようなITリテラシーがゼロの人間がトップになったことが、「いなほ銀行」の悲劇の始まりである。

「誌」では、システム統合プロジェクトの成功事例を絶賛している。三菱はCIOとかシステム部門役員にトップ人材をあて、会長・頭取が定期的に青葉台や池尻のプロジェクトの開発現場に行って激励したというのだ。実際1997年のプロジェクトでは1500人の開発部隊が乱れなく遂行して予定通りに完了したそうだ。確かにこれなら士気もあがって、プロジェクトも成功するだろう。

彼らは、世界最古の木造建築物の法隆寺は誰がつくったか?という質問に「推古と聖徳太子が・・」と回答するかもしれない(再建の突っ込みはおいといて)。しかしITの人間は「当時の大工さん(宮大工)」ということを知っている。当時の大工を含めた全員の士気が人類史上最強のMAXになって建立したからこそ、法隆寺は現在も残っていると信じている。

またギザのピラミッドは3000年以上経った今も存在する。石造りだから当然と思うだろうが、ギザのピラミッドの後に造られた小型ピラミッドには、崩れているものも多数ある。
ウナス王のピラミッド
http://hanakuidori.blog.jp/archives/75224383.html
サフラー王のピラミッド
https://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=25093004268

ちなみに、ギザのクフ王のピラミッドも赤坂プリンスホテルも、高さはいずれも約139メートルである。ピラミッドは3000年以上経った今も存在するが、赤プリは建設からわずか約30年で解体された。

いきなり巨大なシステムに取り組めば、まず破綻する。
2009年、三菱銀行は投資額2500億円、総工数11万人月(Day1とあわせて)、ピーク時に6000人の技術者が参画した巨大プロジェクト「システム本格統合(Day2)プロジェクト」を大きなトラブルなく納期どおりに完遂し、IT Japan Award 2009の経済産業大臣賞(グランプリ)を獲得した。
三菱はまず1997年に開発費200億円、1万5000人月のシステム統合プロジェクトを10ヶ月で完了した。
そして次に800億円の3万人月のDay1プロジェクトがあった。
Day2はようやく3番目に手がけたのだ。

逆に「いなほ銀行」は2009年から2013年にかけて、プログラムを自動生成する新規開発ツールを使って小規模の「グローバル定期預金」システムを構築。この後いきなり4000億円システムに突入している。客観的には、無謀な身のほど知らずとしか思えない。

私がIT業界の知人に聞いたところ、システム開発には「見積係数」というものがあるそうだ。正規の見積額に掛ける数字というのである。

例えば、三菱銀行なら0.7というのである。あの感動を味わえるなら、徹夜でも休日出勤でも関係ない。0.7とは通常100万円のところ70万円でも受けたい、あるいは7時間分の費用だけど、裁量労働を使って10時間くらい働いてもOKと言う。

逆に「いなほ銀行」は10とのことだ。通常は100万円の仕事でも「いなほ銀行の現場はバカらしくて、1000万円くらいもらえないとやってられない」とのことである。従来のCOBOLベースの開発はステップ換算だから「係数」は0.8から1.2くらいだったらしいが、最近ではいろいろな言語や手法があるので、「係数」のレンジが2ケタまで広がったらしい。

もし発注先が全部この「係数」を適用したと仮定する。

いなほ銀行:4000億円=実質400億円分のシステム

三菱銀行:実質400億円分の仕事を0.7掛けの280億円で請け負える。

つまり、いなほ銀行の4000億円と同じようなシステムを、三菱銀行なら280億円でできてしまう計算になる。

特に新規開発ツールは実績が無いため、ボッタクリ見積もりが極めて容易にできるらしい。技術者の数が少ないため、3倍5倍をふっかけ放題のカモネギ状態だったのではないか?

※実際には人間が増えると管理する人間も必要である。またコミュニケーション・チャンネルが幾何級数的に増え、リスクが激しく増する。これらも考慮すれば、三菱銀行なら100億円くらいでできたかもしれない。

これらはあくまでも、もし役員にIT知識がなければここまで損をするという仮説である。もしこの仮説が現実世界で起こって、その影響で店舗宿縮小・人員削減があったら、行員の気持ちはいかばかりであろうか?

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